オピオイドの基本的な投与経路は経口であるが、口内炎、嚥下困難、消化管閉塞、嘔気・嘔吐などの原因から経口投与が継続できず、投与経路の変更が必要となる場合がある。
そのような代替経路の中でも持続皮下注は以下のような場合に選択される。
- 静脈ルートにがとれない、問題がある場合
- 在宅で疼痛コントロールが必要な場合
持続皮下注の特徴
- 静脈注射に比べて侵襲が少なく安全で簡便
- 投与量の変更が迅速に行える
投与量の変更が迅速に行えるため、疼痛コントロールの不安定な場合や、急速な用量の調整を必要とする場合にも適する。
持続皮下注の注意点
- 皮膚からの吸収の上限は一般的に1mL / 時間
- 大量のオピオイド投与には向かない
- レスキュー・ドーズの液量にも注意が必要
一般にレスキュー・ドーズはポンプを早送りして対応するが、刺入部に痛みを生じない流量を設定する必要がある。
持続皮下注入器の種類
ディスポーザブルタイプ
バルーンを用いたディスポーザブル式の注入器に、薬液を注入して使用する。流量の変更はできない。50~100mL程度の容量があり、交換は数日おきでよい。院外処方が可能。以前はPCA機能が無いものもあったが、近年はPCA機能に対応している製品が増えた。
シリンジポンプタイプ
携帯専用のシリンジポンプ。小型で携帯しやすい。流量設定を患者個別に設定できる。容量が5~10mL程度と少ないため、流量によっては頻回にシリンジの交換が必要。
輸液ポンプタイプ
輸液ポンプを用いる方式。バッグには専用の50~100mL程度の容量のものを使用する。
細かい流量設定やその他さまざまな設定が可能。携帯は可能だが他の方式に比べて大きくかさばる。交換するバッグや本体含めやや高めのコストがかかる。
持続皮下注に使用される麻薬(オピオイド)注射剤
塩酸モルヒネ
1%注射液、4%注射液がある。
経ロモルヒネ投与から変更するときは、1日経口投与量の1/2量を、24時間で投与できるよう流量を設定する。レスキュー量は2時問分の注人量とする。
フェンタニル
0.005%注射液を使用する。
レスキューは2時間分を基本として設定する。
オキシコドン
1%注射液を使用する。
持続皮下注の実際
準備するもの
- 薬剤アンプル(バイアル)
- 注入ポンプ
- 充填用シリンジ
- エクステンションチューブ(必要に応じて)
- テフロン針(25~27G、翼状、留置タイプなど)
- 透明なフィルム(テガダームなど)
手順
- 注射器に薬液を入れ、注入ポンプに充填してテフロン針の先まで薬液を満たす。
- 人差し指と親指で皮膚をつまんでテフロン針を皮下に刺入する。
- 透明なフィルムを貼付し負荷や圧迫を避けて最小限に固定する。
刺入部位
剌入部位は、体動で位置がずれにくい前胸部または腹部を使用することが多い。前胸部の場合は、アルコール消毒の上、27G翼状針にて皮下を穿剌、留置する。腹部の場合は、24Gプラスチック留置針を用いて皮下に留置する。
ルート交換
おおよそ1週間程度剌入していると皮膚が発赤するため、1週間を目途にルートを交換する。
注意点
皮内や筋肉内に留置すると、潰瘍形成や疼痛を誘発することがある。また、薬液の内容によっては皮膚の剌激となり、発赤や硬結を生じる可能性がある。予防としてステロイドを少量混ぜることがある。
レスキュー
注入する機材によってはPCA(Patient Controlled Analgesia)機能が備わっており、通常はこの機能を利用してレスキューを行う。
Patient Controlled Analgesiaとは痛みを感じたときに、患者自身がレスキューとしてのボーラス投与を簡単に行える機能を指す。ほとんどの機材でボタンを1回押すことで利用できるようになっている。また、一度レスキューを使用すると一定時間は再使用がロックされ、連続注入を防ぐ機能も備わっている。
一般的に持続投与量の1~2時間分をレスキュー1回分の投与量とする。
緩和的皮下注射に使用される麻薬(オピオイド)以外の薬剤
セレネース(ハロペリドール)
鎮静薬。比較的浅い鎮静に用いる。
ドルミカム(ミダソラム)
鎮静薬。使用量によっては深い鎮静も得られる。
フェノバール(フェノバルビタール)
鎮静薬。比較的深い鎮静効果が得られる。効果発現に12時問程度と時間がかかる。強い脂溶性の薬剤であるため、プラスチック製の部品を持つルートは溶解破損する可能性がある。
サンドスタチン(オクトレオチド)
ソマトスタチンアナログ製剤。消化管の消化液の分泌、運動を抑制し、腸閉塞に伴う腸管拡張による苦痛を和らげる。
参考)
日本緩和医療学会 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2010年度版
在宅医療助成勇美記念財団 麻薬 – 持続皮下注資料 –
塩野義製薬 オキファスト注の使い方パンフレット