
おくすりの種類によって母乳に移行しやすいものとしにくいものがあることがわかっています。
母乳は血液から作られています。血管にある血液から母乳に必要な成分だけを乳腺側に通してあげることで母乳が作られます。この血液から母乳へ移行する間には脂肪膜があり、これが関門のような役割をしています。この関門で通過できる物質が選別されており、例えば血液を赤くする成分はここを通過できませんので、母乳は赤くなりません。
この関門を通過しやすい物質は以下のようなものだとわかっています。
- 脂溶性 (ただしエタノールなど分子量が小さいと水溶性でも移行します)
- 小分子 (分子量が200~500以下くらいの)
- 塩基性
- 蛋白結合率が低いもの
このうち、なぜ塩基性の物質が血液から母乳に移行しやすいのかを考えてみます。
塩基性の物質が母乳に移行しやすいわけ
母乳は弱酸性に保たれています。一方で乳房にある血管内の母乳の元となる血漿は中性に保たれています(こういった体内の環境が一定に保たれる仕組みをホメオスタシスと呼びます)。
また、先のリストにもあったようにそもそも脂溶性の物質が通過しやすいこともわかっています。
これらの情報と、高校の生物や化学で習う平衡を組み合わせて考えます。
酸性や塩基性の物質は常にイオン型と分子型に行ったり来たりを繰り返しています。このうち酸性とはイオン型になるときにいかに水素イオンH+を放出できるかの能力とも言い換えることができます。
ですが、物質の周りの液が酸性ですでにH+がたくさんあると、そこに更にH+を放出するのが難しくなります。つまり酸性の液中では酸性の物質はイオン型になりにくく、分子型でいることが多くなるわけです。
母乳は弱酸性なので、酸性の物質は母乳人移行しても分子型のままでいる割合が高い、逆に塩基性の物質は母乳中ではイオン型になっている割合が高い、と考えられます。
ここで平衡を考えると、脂肪膜を通過しやすいのは脂溶性の物質、つまり分子型の物質ですから、平衡は分子型だけで起こります。
塩基性の物質は母乳に移行したらイオン型になり分子型の量が減りやすい、すると平衡している分子型の物質が更に血液から移行してくる、そんなしくみで塩基性の物質の方が血液から母乳に移行しやすくなります。
おくすりも物質
ここまで物質という言葉を使ってきましたが、おくすりも物質の一種です。おくすりの成分が酸性か塩基性かわかれば母乳に移行しやすいのかどうかのヒントになります。ただし、先のリストにある他の要因(脂溶性かどうか、分子の大きさ、蛋白結合の強さ)も大きな影響を与えますので、母乳移行性は酸性塩基性だけでなく総合的に考える必要があります。専門家である薬剤師に尋ねるのがよいでしょう。
これらの知識はすべての薬剤師が持っているわけではありません。妊婦・授乳婦専門薬剤師・認定薬剤師という薬剤師の認定制度がありますので、そういった認定を持っている薬剤師を探すのもよいと思われます。