救急やICUといった臨床現場での注射薬の投与量計算でγ(ガンマ)という単位が使われることがあります。
γ(ガンマ)とは、1分間に投与する患者さん体重1kgあたりの薬剤量(μg)を指し、単位は μg/kg/min になります。
ひとことで言えば、患者さんの体重に合わせた投与量を指示できる指示単位です。
ですが、単位を見るとわかるようにγ(ガンマ)には「mL」のような液量の概念が入っていません。このため、実際にγ指示に対して注射液を何mL使用すればいいかは、使用する注射液の濃度を考慮して計算しなければなりません。
γ(ガンマ)で投与量を管理するメリット
同じ注射薬を投与するのに、体重が40kgの患者さんと80kgの患者さんに同じ量を投与してよいでしょうか?
また、増量、減量の幅も同じでよいのでしょうか?
ほとんどの注射薬は同じでも大丈夫です。ですが、厳密に血圧管理したり血管を広げたりしたい場合はそうもいきません。患者さんの体重に合わせたきめ細かな投与量設定が必要になります。そのようなときにγでの注射薬投与が必要になります。
γ(ガンマ)で投与量を管理するメリットは、患者さんの体重に合わせた投与量を設定できることなのです。
γ(ガンマ)での投与のデメリットと現場での混乱
γ(ガンマ)での投与指示は医師にとっても患者さんにとってもメリットがある一方、看護師や薬剤師にはとてもわかりづらい指示になってしまいます。
なぜなら、医師と看護師と薬剤師が業務で必要になる単位はそれぞれ異なるからです。
- 医師:μg/kg/min (= ガンマ)
- 看護師:mL/時
- 薬剤師:mg/日 or アンプル/日
実際に計算してみる
では、実際に必要なシーンが多い「医師のγ指示を看護師が必要な1時間に投与する液量に変換する」ことをやってみます。
医師「体重50kgの患者さんにイノバン(塩酸ドパミン)注射液0.3%を5γで投与してください」
5γは5μg/kg/minです。これは、1分間に体重1kgあたり5μg投与するという意味です。これを使いやすい形に変化させていきます。
体重50kgなので
50を掛けます。
5×50 μg/min = 250 μg/min
これで1分間に投与すべきイノバンの用量が出ました。更に変換していきます。
1分間→1時間に変換
1時間は60分なので、60を掛けます。
250×60 μg/時 = 15000 μg/時
1時間に投与すべきイノバンの用量が出ましたがμgだと解りづらいですね。1000μg=1mgですから1000で割るとmgに変換できます。
μg→mgに変換
15000/1000 mg/時 = 15mg/時
ここまでで、1時間に15mgを投与すればいいことがわかりました。
更にこれを液量に変換します。
mgをmLに変換
添付文書を見るとイノバン注射液0.3%は50mL中に150mgの成分が含まれていることがわかります。つまり、1mL中に3mgの成分が含まれていることになります。
ですので、15mgの液量は
15/3 = 5
で5mLとなります。
1時間に投与すべきmLは、
15mg/時 = 5mL/時
となります。
これで看護師さんがポンプに設定すべき「1時間当たりに投与する液量」がでました。
すぐに計算できる裏技
上の計算結果で気づかれたでしょうか?
5γ = 5mLとなりました。
数字は同じ5で変わっていませんが、これは偶然ではありません。なぜイノバンやドブポンといった注射薬に中途半端な濃度である0.3%が用意されているかというと、計算がしやすいからです。
つまり体重50kgの患者さんに投与するγと液量が同じになるように設定したのが0.3%という濃度なのです。
これを応用すると面倒な計算は省いてγからmLを出すことができます。
体重50kgの人に5γ必要な場合は5mLなのだから、体重100kgの人には倍の10mLが必要になります。
では体重40kgの患者さんへ5γ投与する場合はどうでしょう?
40/50×5 = 4
で4mLです。
慣れると暗算ですっと計算できますよ。
γ(ガンマ)で管理される主な薬剤
γ(ガンマ)で投与量が指示されることの多い薬剤はイノバン(ドパミン)、ドブトレックス(ドブタミン)、ノルアドリナリン(ノルアドレナリン)などのカテコールアミン製剤です。
他にもα型ヒト心房性ナトリウム利尿ポリペプチド製剤であるハンプ、短時間作用型β1選択的遮断剤であるオノアクト、急性心不全治療剤であるミルリーラなどでもγ値での投与量指示が行われることがあります。
これらに共通しているのは、
- 患者さんの状態によって投与量を細かく増減する必要がある
- 緊急状態で使う場合が多い
- 薬効が強い
という点です。
γ(ガンマ)値を良く使用する現場は、これらの使用頻度が高い場所、つまり集中治療室、救急外来、手術室、循環器内科病棟、心臓血管外科病棟、などになるでしょう。
現在は直接γ(ガンマ)値を設定できるシリンジポンプもあり、以前に比べて便利になってきていますが、その理由を理解するためにも一度は手計算をしてみると良いと思います。
そのような場合にこの記事が少しでもお役に立てば幸いです。